フロンティア
インタビュー

教えて!梅崎修先生②~ミドルシニアのキャリアの形成と地方共創インターンシップ

「人生100年時代」と言われて久しい日本では、都市部大手企業の社員3人に1人が50代を迎えているといわれています。40代、50代のミドルシニア社員の多くは、会社に「就社」し、キャリア形成を委ねることが当たり前でした。突然の「人生100年時代」の到来で、残りの長い年月をどのように過ごすべきかは、一人ひとりの大きなテーマであり、社会の課題でもあります。国は、法整備や副業の促進などを通じて、セカンドキャリアの形成を後押ししていますが、ミドルシニアの多くは二の足を踏めず悩んでいます。日本の雇用システムや職業キャリアの形成に詳しい、法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科の梅崎修教授に、地方でのインターンシップ体験がミドルシニアのキャリアの形成にどのような影響をもたらすのか聞きました。

 

聞き手・大桃 綾子(Dialogue for Everyone㈱ 代表取締役)

法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科 教授 梅崎 修(うめざき おさむ)
1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。2002年から法政大学キャリアデザイン学部に在職。約20年間、人材マネジメントと職業キャリア形成の調査・研究を行っている。自ら週末は、埼玉県秩父市に「ワーケーション」して、地方都市における職業形成の研究も実地で手掛ける。マンガや映画を活用した、分かりやすいキャリア論も発信している。主な著作として『仕事マンガ!-52作品から学ぶキャリアデザイン』(ナカニシヤ出版)、『GIANT KILLING チームを変えるリーダーの掟』(あさ出版)、(共編著)『大学生の学びとキャリア-入学前から卒業後までの継続調査の分析』(法政大学出版会)など。

社会の変化に対して、人間の意識は常に10年遅れ

-一歩踏み出す…頭の中で考えるより、実際にやってみるということが大切なような気がします。

人間のアイデンティティというのは、たとえ社会の変化が起きていたとしても、意識は古いままであると言われています。
私は大学生たちに、就職支援のアドバイスをするときに、「お父さんやお母さんの話は、聞かなくてもいい」と話しています。それは、彼らの父母が、自分たちの就職活動当時の知識のまま子どもたちにアドバイスをしているからです。
社会の変化に対して、人間の意識は常に10年遅れと言えます。意識や態度の遅れというのは常にあると考え、体験の質を変える。変化するきっかけを持とうとすることが、人生を豊かに生きることで非常に重要なのだと思います。

 

 

「自分は部長になれない」と気付く50代になってから、変化や挑戦も悪くありませんが、本当は「5年前厳守!」と言いたいところです。
日本は海外に比べると、昇進のタイミングが遅いと言われています。なので、まだまだ頑張れると仕事にしがみついてしまう傾向があります。別の場所で副業、ボランティアでもいい、ものの見方の枠組みを変えることが大切です。

そのときに何が重要かというと、専門性を上げる「リスキリング」ではなくて、自分の持っている知識や技能を人に簡単に分かりやすく説明できる能力だと私はとらえています。例えば、会社で長年築き上げてきた、経理の知識や制度設計など、その能力をさらに高めるのではなく、他の場所に行って柔軟に応用したり、誰もが分かりやすく説明できたりすることこそが、本当は求められているのです。地方にとって必要な人材は、自営業者のように経理から広報、営業まで何でもできる「ジェネラリスト」か、自分のスキルを生かして簡単に人にも説明できる「専門性の柔軟性」を持つか、どちらかだと思います。

 

 

-お医者さんでいうと、大学病院の医師というよりもなんでも相談できる「まち医者」みたいなイメージですね。

まさに、そうですね。こうして、自分のスキルの「編成構造」を変えていくためには、どうしても50代に入る5年前がいい。理想をいうと、こちらのインターンシップに参加して、5年後に本気で地方移住を考えるとしたら、スキルの編成構造を自営業者かそれとも企業家の右腕的な存在か、どっちのタイプでいくのか地域への貢献度を考えた上で選択し、準備していくことが望ましいでしょう。

大企業の中高年について、あまりいいイメージを持たれないかもしれませんが、私はそうは思ってはいません。もちろん、上から目線で大企業風を吹かせていたら、受け入れてもらえないかもしれませんが、これまでの経験や知識、身に着けたスキルを分かりやすく教えることで必ず必要とされるはずです。「リスキリング」とは、そんな程度のものだと考えています。何かのきっかけで、1週間で変わるかもしれないし、何年いても変わらないケースもある。変わらなければ、地方では求められていないよとなります。

 

-私たちのインターンシップに参加された人は、地方の企業で働いてみて、「ありがとう」と直接、言われることに感動したとよく話しています

 

地方の経済は、人と人の関係が非常に近い。ある意味、青年会議所のメンバーたちと、スナックでの付き合い、みたいなもので回っていることがあります(笑)。こうした人たちと一緒に飲むことで、地域の事情が分かることもあります。自営的なマインドを持つ人々が、ネットワーク化して助け合いながらビジネスをしている。まさに都会と地方では、経済構造が違うのです。

大企業に学ぶより、アフリカ人に学べと言いたいです。小川さやかさんという学者が「『その日暮らし』の人類学(もう一つの資本主義経済)」という著書の中で、タンザニアの商人たちが、いろんな商売に手を出したり、気軽に仕事を転々したりしながら、経済圏として成り立っている様子を紹介しています。全く同じように生きる必要はありませんが、別の世界を知ることは重要です。我々の社会とは異なる価値観で人々が豊かに生きています。彼らの戦略というのは「生き残りをかける」とう視点からも、正しい考えなのだと思うのです。
日本の地方も大企業に依存した経済圏のモデルは少ない。一人ひとりが「自営マインド」を持ち、あっちいったらこれが儲かる、こっちいったらだめだったなど、試行錯誤しながら小銭を稼いでいるというのが多くの地域経済なのです。

 

そこに、ポンと入っていった場合、どうサバイブ(生き残り)していくのか、「立ち位置」を考える訓練が必要だと思うのです。表現するとしたら、「自分でハンドルを握っている感覚」とも似ているのではないでしょうか。自分で自分をコントロールする。これは大きな組織の中にいては味わったことがないでしょう。自分自身でコントロールすること。それは、危険かもしれないし、不安かもしれない。ただし、「起業をしなさい」と言っているわけではありません。副業で5千円かもしれませんが、稼ぐことは楽しいじゃないですか。土日のフリーマーケットでもいい。もちろんお客様からダイレクトに頂く、感謝もあるかもしれませんが、自分で自分をコントロールできるという部分が大きいのではないでしょうか。退職前に副業を重ねて、早期退職して、自分で自転車をしっかりこぐ感覚を身に着ける。そんな風にみんながわちゃわちゃとしながら、自立しながら生きていく。ただ「楽」になる「クオリティー・ライフ」とは異なる、本質的な「クオリティー・ライフ」を求めて生きていく。そんなおじいさん、おばあさんが増えていくといいなと思います。

 

 

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執筆者:HaNa
ライター
1974年生まれ、埼玉県出身。ジャーナリストの父の背中を見て、新聞記者になりたいと思い新聞社に入社。社会部を振り出しに、政経部、地方部などで16年間、記者として働く。「取材、書く」だけではない、企画から提案、地域おこしまで何でもできる新しい時代の記者を目指している。家庭では夫(単身赴任中)と9歳の息子の3人家族