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インタビュー

三井住友海上火災保険㈱~経営戦略としての越境学習①「地方インターシップ導入1年の成果」

日本を代表する保険・金融グループの三井住友海上火災保険は、人財育成の一環として、地方企業へのインターンシップ制度を導入している。世界的に広がる感染症や多発する自然災害、そして戦争など。予測しにくい時代背景だからこそ、「自律的に考え、行動する社員になってほしい」と、同時期に始まった副業・兼業制度と同様に重要な人事施策に位置付けている。その導入の中心的な役割を果たし、自らもプログラムに参加した経験を持つ、同社人事部 能力開発チーム課長の山本悠太さんに、意義について聞いた。

聞き手:次のじぶんProject プロジェクトリーダー 北村貴

三井住友海上火災保険株式会社 人事部 能力開発チーム 課長 山本 悠太(やまもと ゆうた)
1984年生まれ
2007年4月三井住友海上火災保険株式会社入社
2007年~2010年企業営業部門で業務に従事
2011年~2019年商品部門で業務に従事
2020年~現職場にて人財育成業務に従事

経営戦略に位置づけられた「越境学習」

「越境学習」と位置付ける、地方インターシップの制度を導入して間もなく1年がたちます。取り入れた理由についてお聞かせください

弊社の中期経営計画(※)では、「イノベーション(変革)」をどんどん創出していく方針を明確に打ち出しています。その方針に基づき経営計画があり、連動した人事戦略を立案してきました。
弊社が目指す人財像は、「自ら学び、考え、自律的に行動する」社員です。その上に経営戦略が重なり、昨今の私たちを取り巻く環境がさまざまに変化していく中で、「イノベーション」がキーワードになっているのです。これは、過去の経験や知識に安住することなく、主体的に学び自己成長を続けなくてはいけないという、経営からのメッセージです。端的にいえば、失敗を恐れないチャレンジを人事面でも支援していこうというコンセプト。経営戦略を達成するために考えられた施策の一つが、「越境学習」です。

求める人財像も取り巻く環境で変わっていきます。そうすれば当然、育成の方法も変化します。私たちが思い描く各種戦略の中で「越境学習」は、戦略達成に重要な観点の一つとして、積極的に導入し、経験者を増やしていきたいと考えています

※「中期経営計画(2022-2025)」では、目指す姿を「未来にわたって、世界のリスク・課題の解決でリーダーシップを発揮するイノベーション企業」としている。

具体的に、求める人財像の育成に「越境学習」がなぜ有効なのか、教えてください。

これまでは、階層別研修を軸として選抜式や公募型の各種研修を実施してきましたが、最近は社員なら必ず受講しなければならない「必須研修」を大幅に減らしています。一方、自ら手を挙げてもらう任意の研修に力を入れています。これは研修に限らないことなのですが、必要と感じている人が、必要なやり方で、必要な時にやる。社員が望むものを可能な限り叶える在り方に比重が高まっています。私たちが目指す人財像は、主体的に考え、自ら行動できる社員。現状に満足するのではなく、自己成長をきちんと続けられる人。また、失敗を恐れずにチャレンジできる人です。そこに少しでも近づいていけるように各種研修を構築しています。経験や知識を積み上げていくことも重要ですが、激変する時代環境においては、新たな価値を創造する重要性が高まっており、本質的な価値創造のヒントは、社外にあると考えています。今までだれも経験したことのない知識などを取り込んでいかないと、会社も会社を構成する人も成長していきません。今の経営が目指す戦略に越境学習は、非常に親和性が高いと感じています。

 

越境学習の効果と役割

「越境学習」の導入はいつからですか?また社員はどのように受けとめているのか教えてください。

 

越境学習は2021年度(2021年4月)から。副業・兼業制度の開始とも重なっています。もともとは役職と年齢、主に若手に限定していましたが、2022年度から年齢制限を取り払い、誰でも参加できる制度に変更しました。ただ、応募状況をみると30代後半の人が一番多い。ある程度社内で経験を積み、仕事のやり方は理解しているが、「このままでいいのか」、「次はどうしたらいいのか」など、漠然とした不安やもやもや感のある人が、ステップアップを求めて参加していると推測しています。

これまでに約100人が受講しました。全社員は1万4500人(2022年3月末)ですので、全体の1%弱といったところです。社員には今までだめだと思っていたこともやればできる、以前から興味があった人は、オフィシャルでできるようになったと受け止めてもらい、社員のエンゲージメントを高めていければと思っています。募集案内を発信すると、それなりに反応があるので、興味関心が高いと感じています。

「越境学習」のプログラムは2社に委託していて、大きな違いは1人でインターンに入るか、グループで取り組むかです。いずれも地方の企業やソーシャルベンチャー、スタートアップ企業に1、2カ月間ぐらい参画し、それぞれが抱える課題を一緒に考えて解決に取り組むというプログラムになっています。グループで参加する場合は、弊社だけではなく様々な業種の企業の社員とグループを組むので、他者から何か気づきを得たいというのであればグループで。一方、自分の実力をしっかり測ってみたいという人は、個人で参加となります。どちらがいいということではなく、参加者本人の目的に応じて使い分けてもらうことになりますか。

 

-参加した受講者の具体的な変化、効果について教えてください

 

参加する人の課題設定によるところが大きいと感じており、定量的な効果測定は難しいと感じています。参加者それぞれによって、気付きや得られた効果は違います。自分に課題を感じていて、成長したいという人もいれば、社内で積み上げてきた経験が世の中一般でも通用するのか試してみたいという人もいます。また、自分の現業では難しい経験やチャンレンジをしてみたいという人もいます。多種多様な参加動機があって、結果や効果もそれぞれです。人によっては副業・兼業、プロボノ(*注1)として継続することもあると聞いています。この経験をきっかけに、成長し、次のステージに進むことが重要だと考えています。

※注1:各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを中小企業やスタートアップ企業、NPOなどに無償提供して社会貢献するボランティア活動全般。

 

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執筆者:HaNa
ライター
1974年生まれ、埼玉県出身。ジャーナリストの父の背中を見て、新聞記者になりたいと思い新聞社に入社。社会部を振り出しに、政経部、地方部などで16年間、記者として働く。「取材、書く」だけではない、企画から提案、地域おこしまで何でもできる新しい時代の記者を目指している。家庭では夫(単身赴任中)と9歳の息子の3人家族