愛すべきトホホ人図鑑

「まずビールちょうだい、それと」

東京のビジネス街の居酒屋などでよく耳にする言い方だ。男性が多いが、女性でも言う人は言う。いや、ちょうだい、って。頂戴と漢字で書けば慇懃なムードだが、声に出すとなんだか老人っぽい、もしくは幼児っぽい。
若いころには外食をするときにもおそらく「まずビールを、それから**をください」と言っていたはず。ください、が取れ、ちょうだい、になるころには立派な「上から中年」に仕上がっている。
ただ、大阪方面では「ビールちょうだい!」は親しみを示すものとされ、「ください」などつけるとよそよそしい感じになるという(ケンミンショーでやってました)。そう、敬語を使わないことで友達っぽい感じや慣れ親しんだ感じを出し、コミュニティとの親和性をアピールするのは素敵だ。周りがそのように受け取れば、である。

 

距離を詰めたい、その思いを交換する

話は変わるが、若い人と話していて彼らがついうっかり「えー〇〇だよー!あっ、いけない、タメ語すみません」などという瞬間が好きだ。楽しく話をしているからこそうっかり素が出てしまう感じがしてほほえましい。もしかしたら単に敬意のなさがはみ出してしまっただけかもしれない。でも、なんだかうれしい。完全敬語の中にポッと挟まるタメ口。小さなかわいい花が咲いたようなウキウキ感がある。ちょっとだけ仲良くなれたような感じ。もしあなたがいつもきちんとしたイメージのひとで、「結構ですね」「承認します」というビジネス語を使っているとしたら、たまには「わあ、素敵!」「いいじゃない」というような感情多めの言葉を発してみるだけでも、他人との距離感が近くなるかもしれない。馴れ馴れしさと豊かな感情表現のせめぎあい。ここを自在に操ってこそのセカンドキャリア世代ではないだろうか

 

これわたし?と思ったら
多様な話し方を楽しんでみよう
なじみの店では「ちょうだい」もいい。ただはじめての場所であれば丁寧に。親しい友人ともたまには言葉を選んでしゃべってみたり。言葉選びは関係性づくりにほかならない。酸いも甘いもかみ分けてきたからこそ繰り出せる多様なしゃべり方を使い分ければ、人間関係はより豊かに、円滑になるのではないだろうか。しかしグローバル化した上司が突然部下を、Mariko、だのToshi、だのとファーストネームで呼び始めるのはちょっとだけムズムズしてしまうね。

愛すべきトホホ人図鑑とは

自分のことって自分では意外とわからないもの。「それなりにがんばってきた。成果だってなかなかのもの(周りもそう思ってくれているに違いない…)」。と思っていても、長所と自認するところはちょっと鼻についていたり、短所と思っているところが意外と人に愛されていたり。そこかしこにいる「愛すべきトホホ人」の中に、もしかしたらあなたに似た人がいるかもしれません。違う角度から自分を見つめ、「次のじぶん」への一歩を踏みだすステップを、広く、軽くするきっかけになれば幸いです。

執筆者:ふしみしょうこ
ライター
北海道生まれ東京在住のコピーライター。会社勤めと並行して、ふるさと北海道にまつわるコラムを書いたり、精神的支柱である演劇の界隈で活動、執筆する。人生は劇場であり、いただいたお役を工夫して演じるのが面白さ、という気持ちで生きております。