フロンティア
インタビュー
キャリアブレイクを人生の選択肢に入れてみたら
「キャリアブレイク」の研究をしています
「私、キャリアブレイクします。」
「ん?キャリアブレイク?」
先日、ある会社の50代管理職の方とお話しする中で出てきた話題でした。
「同じ部署の部下から言われた言葉を知らなくて困りましたよ。」
「キャリアブレイクってなんだ?となってすぐに調べたら、離職休職をポジティブに捉える考え方、と出てきて、ますますわからなくなりました。」
私は一般社団法人キャリアブレイク研究所で理事をしています。私たちは、人生に一時的なブレイクを取り入れるキャリアブレイクという考え方を文化にすることに関心があり、活動をしている研究所です。キャリアブレイクとは、一時的に雇用などから離れる離職、休職、休学など、キャリアの中にあるブレイク期間のことを指します。制度ではなく文化であり、また造語ではなく、欧州やアメリカでは一般的な文化です。一時的に離れる目的は、旅、留学、自主的な挑戦、勉強やトレーニング、休養、療養、出産、自主的な挑戦、子育て、家族のケアなど様々。離職、休職、無職、という言葉はどこかパワーがあり、人をハッとさせるそんなイメージがあるかもしれません。私たちはそれらを人生の転機と捉え、入り口は苦境であったとしても良い転機にしていく人たちを見て、社会に良い転機が増えることを目指しています。

-1 転機は意図していたり、していなかったり
私たちは2022年10月20日にキャリアブレイクという文化を研究する研究所として、「一般社団法人キャリアブレイク研究所」を立ち上げました。「むしょく大学」「月刊無職」「無職酒場」「mada books」などおもしろそうなことを続ける中で3年目に入りました。このような活動をしていると、「私、キャリアブレイク中です。」「私、無職なんです」と声をかけられる機会があります。普段、無職を語る機会は少ないのかもしれません。話を聞いていると、日本でもかなりの数の人が実はキャリアブレイクを経験しているということがわかってきました。「名前は知らなかったけれど、言われてみれば自分はキャリアブレイクでした。」そんな風に言われることもあります。
キャリアブレイクのきっかけは様々です。この期間のことをポジティブに捉えてもらえないことが多いので、あまりその期間の経験を語ろうとする人がいないのかもしれません。転機の入り口は大きく4つに分けられると考えています。
一つ目に怪我や病気による療養期間や、妊娠、出産、介護などライフイベントや家族のケアのための休職や離職タイプ、
二つ目に自分の特性に合ったよりよい仕事や働き方を実現するために、休職や離職を使い心身の改善や自分の客観視に取り組むタイプ、
三つ目に周囲に合わせて生きてきた中で、一時的に自分の時間をゆっくり取り感性を回復させていくタイプ、
そして留学や長期の旅行、学び直しやボランティアなど、挑戦するために離職や休職をするタイプです。
このように、転機は自分が意図して起こる場合もあればそうでない場合もあります。ネガティブな側面もありますが、実は様々で、主体的に休みを取って人生の転機をつくる行為ということもできます。
-2 無職を推進しているわけではない
世代によっては、「働けよ」と言われてしまうこともあります。休むなんて選択肢はなかった、と無我夢中で働いてきた世代に、無職を選択することを受け入れてもらうことは難しいかもしれません。キャリアブレイクは決して無職を推進しているわけではないのです。無我夢中でがむしゃらに働いてくれた人たちのおかげで支えられてきた社会もあります。
また、働き続けるのがよしとされる社会で、一旦「休んでみる」のは勇気がいることです。決して働きたくないわけではない、働き方を見直したい、もっと意味のある働き方をしたい。そんな時に自分のキャリアを見直す、そんな転機の結果、無職を選択することもあれば、しないこともある、キャリアブレイクはそんな選択肢の一つであると考えています。手放すということは空白(ブランク)ではない、のです。
-3 部下がキャリアブレイクを選択した場合
冒頭にもつながる、あるケースをご紹介します。
30代前半女性。忙しく働く毎日。希望の業種に就職し、仕事に追われながらも充実している日々でやりがいを感じていた。人間関係も取り立てて悪いわけではない。上司はいつも背中を押してくれて、チャレンジする機会を与えてくれていた。その期待にこたえようと必死に頑張り、休みの日は学ぶための本を買い勉強した。
ふと気がつくと同世代の友人は結婚、出産などの話が出ていて、自分が置いていかれているような気持ちになった。「自分には仕事しかない」と思い、更に働いた。期待に応えるために、求められたらやりたい仕事とは違うことも、必死になって取り組んだ。「求められていることをやること」が自分にできることだと言い聞かせた。気づけば入社当初、自分がやりたかった仕事からは離れていることに気づき、ふと考えた。
このままでいいのだろうか。何か大きなきっかけがあったわけではない。日々仕事に追われているとゆっくり考える時間もなかった。ふと浮かんできたモヤモヤを消化できず、少し休みたい、漠然とそう思った。
自分は何がしたかったのか、自分を取り戻したい、自分なりに調べる中でキャリアブレイクという言葉を知り、離職を選択することにしたそうです。
上司に退職を伝えて言われたのは「次が決まっていないのなら辞めなくてもいいのではないか」でした。次は決めていなかった。それは休みたかったから。自分を思い出したい、ゆっくり自分を取り戻しながら次を考えたい。「キャリアブレイクしたいです。」これだけ伝えました、と話されていました。
今の働く環境を継続しながらゆっくり自分と向き合う時間を取るのは、なかなか難しいのかもしれません。社会の動きはとても早く、ついていくことに必死で、うまく呼吸しにくくなることもあるのかもしれません。はっきりと理由がなくキャリアブレイクを選択することも、ひとつの選択です。
-4 転機に年齢は関係あるのか
もうひとつ、ケースをご紹介させてください。
50代男性。大学卒業後大手企業でキャリアを積み、40代も終わりが見えてきたころ、定年まで現職をやり遂げるべきか。本当にやりたいと思っていた未知の領域へのチャレンジはもう無理なのか。転職したくても、もうこの年齢では無理なのでは。残りの人生をどうしたいのか。そう考え始めると、今まで見て見ぬふりをしてきた小さな違和感が見えてきた。何か明確に進みたい道があるわけではないけれど時間が欲しい、そう感じて、本を読んでみたり、ネットを検索してみたり。
そんな中キャリアブレイクという言葉を知った。「これは若者の文化だろうから自分の年齢には当てはまらないし、キャリアを変えるなんてそんな簡単ではない。」そう思いながら変わらない日々を過ごし時間だけが過ぎていった。もやもやを同僚に話してみたこともある。「何を言っているんだ。今のキャリアを手放してどうする。」賛同してくれる人はいなくて、人にも相談できなくなった。辞めたい、やっぱり無理だ、でもやっぱり、気持ちは揺れた。ネットを調べる日々が続き、キャリアブレイクの経験談や事例を知る中で辞めるという決心、退職を申し出たのは、最初に辞めたいと思ってから2年後のことだった。時間はかかったが納得して進むには必要な時間だった、と話されていました。
いろんなはたらき方や生き方を知ることができるのも、キャリアブレイクの効能と言えます。長い時間、腰を据えて働く人もかっこいい、そしてキャリアブレイクを選択し、転機を迎える人もまた、かっこいい、そう考えています。
-5 転機は誰にもやってくる
キャリアブレイクを文化にする活動をしている中で感じていること、それは、良い転機は人それぞれということです。もちろん年齢や状況、体調に応じて選択肢は変わるのかもしれません。他部署への異動、休職制度を利用、別の会社と比較など、そしてキャリアブレイクを取るなど、選択肢の幅に違いはあったとしても、それぞれの転機の良い過ごし方はありそうです。
一時的に距離を置いて自分を見つめ直すことで仕事観や人生観が整い、納得して前に進める効果があるのではないか。そして、行きたいところへ行き、やりたかったことに挑戦する。また自分とゆっくり向き合う時間を取ることは、次のキャリアへと繋がります。そこに世代や年齢は関係なく、感性を回復し、人生を立て直す時間を取った先を想像するとワクワクする、そんな気持ちでいっぱいです。
キャリアブレイク研究所
SEMINAR & EVENT セミナー&イベント
- 2024.12.24
- 2024.05.04
- 2024.04.19