フロンティア
インタビュー

仲山進也さんに聞く➂ 人生100年時代、組織の中での働き方とセカンドキャリア 『組織の「ネコ」という働き方』の著者

まずは始めてみよう、「ネコトレ」の薦め

前回のインタビューでは、楽天での壮絶な働きぶりや体験を紹介しつつ、「お客さんへの価値提供」をぶれない軸として、「トラ」へと進化していった過程を語ってもらいました。仲山さんのように、お客さんに喜ばれ、楽しく働くためにはどうしたらいいのでしょうか?モヤモヤしながら働いている、「イヌの皮をかぶったネコ」な人たちにメッセージをもらいました。そして、「ライオン」「イヌ」「トラ」「ネコ」それぞれの強みや役割を認め合ってこそ、ダイバシティだと強調しています。

仲山考材株式会社 代表取締役/
楽天グループ株式会社 楽天大学学長
仲山 進也(なかやま・しんや)
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。2007年に楽天唯一のフェロー社員となり、自らの会社を設立。「横浜F・マリノス」とプロ契約を結び、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。20年にわたり、中小ベンチャー企業を支援しながら、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくりや働き方を探求し、関連する著書も数多い。

-モヤモヤしながら働いているネコ体質な人、いわば「イヌの皮をかぶったネコ」な人たちに、「組織のネコ」からでいい、と呼び掛けていますね。「ネコトレ」は、年齢関係ありませんか?

「筋トレ」と一緒です。年齢は関係ありません。ネコトレの一例を話します。最近、息子の学校から来るメール。これが、何が言いたいのかよく分からない文章でして、差出人の名前がなくて学校名だけ。「こじらせたイヌ」って、匿名の人が多くないですか?「まずは名乗ろうよ」と言いたい。会社として出す文章だとしても、お客さんに喜んでもらう体験のために、名前を名乗る。関係が徐々に縮まったと思ったら、宛名の「様」をひらがなの「さま」に、そして「さん」づけでメールを送れるようになったら、会社名を外してみて個人の名前で送ってみる。どんな小さなことでもいいので、お客様との関係を縮めて、感謝される体験をしてみる。

 

もう一つの「ネコトレ」は、仕事での一気通貫体験がいいと思います。まずは、自分の責任で最後まで何かを成し遂げる。責任の所在を「会社」から「自分」の状態にして、自分のつくった価値でフィードバックをもらう。「仕事ってこういうことだ」って初めて分かると思います。

 

大企業や大きな組織に属したりしていると、プロジェクトを立ち上げたり、始めたりするだけで、上長の承認が必要。なかなか一気通貫とはいかない場合もあると思うのですが

もっと簡単に考えましょう。やろうと思えば、だれでもできることからでいいのです。電話の取り方を工夫したり、お客様に紙一枚のメッセージを寄せたりするなど。報告書のフォーマットを少し変更してみるというのもいいかもしれませんね。急に変えるのではなく、少し「足す」こと。自分で勝手にやろうと思うことが大切です。イヌすぎて言われたことしかやってこなかった人は言われていないことも足してみましょう。それもお客様のために。直接、お客様に携われる機会が少ない場合は、取引先や社員のためにでも可能です。

 

「ネコ」や「トラ」の性質を標準装備している若者やべンチャーが、大企業と組んで古びた企業の価値の再構築を図れる、と著書にありました。ミドル世代のセカンドキャリアを後押しして、都会と地方、大企業と中小企業をつなぐことを目指す、「次のじぶんProject」とも共通します。仲山さんが、そう実感しているのは、なぜでしょう

若者やベンチャーと既存の老舗企業が組んで、うまくいかないパターンってあるのでしょうか?著書で紹介したオムロンの竹林さんは、「起承転結理論」(※)と古びた企業の価値の再構築を図りました。起こすことが得意な人と、転結が得意な人それぞれいる。いわば、忍者と侍。転結型の侍は、ミスしたら切腹しなきゃいけないと考えるような人種。どうしても慎重になります。忍者は切腹しないで、どんな情報でも会社に持ち帰る。起が得意な人がネコ、トラ。転結がイヌ、ライオン。オムロンみたいな大企業は完全に、成熟した「転結」のステージに入っているので、中から起を待っていたら組織の中からは生まれないので、外部から人材を招くカンファレンス機能を作って「起」をつくりました。外部の「起」と社内にいる「転結」をつなぐ「承」の役割をあって、古びた企業の価値の再構築に成功することができるのです。

 

大事なことは、それぞれのステージで役割とやることが異なることです。「起」のステージは、とにかく試行錯誤の繰り返しで、わちゃわちゃとしている感じ。「転結」のステージはKPIを設定して、リスク管理とか。ひとつ事業が生まれて軌道に乗り始めると、イヌやライオン(転結)は「マニュアルをつくりましょう」となります。そうなるとネコやトラ(起)の人は、もうその場から離れていく、、、。起の人、転結の人、それぞれ相互理解できるようにして、「起」から「転結」にスムーズに移行できるように会社はきちんと管理する。「起」のステージのときに、「転結」が変な口出しをしないように、お互い分かった状態をつくる。丁寧にバトンタッチができるような社内風土をつくることがとても重要です。それぞれのステージによって活躍する人が違う、それぞれ得意な人がいるということ。それこそがダイバシティだと思うのです。

 

※起承転結の理論…事業が成長していく過程について、「世の中でこれが必要とされている」といった市場の理論で動き、ゼロからイチを生み出す「起」の人材と、n倍化する過程で戦略思考をきっちりと持ち継続させる力を持っている「結」の人材、両者をつなぐ「承」の人材がいて成り立つと定義。

 

事業を立ち上げるのは、ネコ・トラが得意です。それが軌道に乗って業務量が増えてくると、「そろそろマニュアルをつくりませんか」という時期がきます。そうなるとネコやトラの人は、「そういうの興味ないんですよね」と言って、次の立ち上げに行ってしまったりします。マニュアルづくりが得意なのは、イヌ・ライオンです。そこで、ネコ・トラからイヌ・ライオンへスムーズにバトンタッチできるような組織風土があれば、新規事業が形になりやすくなります。

 

大事なのは、それぞれの強みを理解することです。つまり「起承」ステージのときに「転結」の人たちが口出しをしないこと。安定運用が大事なときに、ネコ・トラがかき回さないことです。それぞれのステージによって活躍する人が違うだけ。それこそがダイバーシティだと思います。

※起承転結の理論…事業が成長していく過程について、「世の中でこれが必要とされている」といった市場の理論で動き、ゼロからイチを生み出す「起」の人材と、n倍化する過程で戦略思考をきっちりと持ち継続させる力を持っている「転結」の人材がおり、その両者をつなぐ「承」の人材がいて成り立つと定義する。

 

楽天にとって、もしくは三木谷浩史社長にとって、仲山さんとはどんな存在なのでしょうか

聞いたことがないので良くわかりません。三木谷さんには、「お前まだいたのか?」と言われそうで、あえて近づきません(笑)。会社からもっとも遠い距離で、お客さんと遊んでいる。そう思われてもいいように、大事にしていることは、会社の「OBライン(境界線)」をきちんと分かっていることだと思います。なんのために仕事をしているのか、という価値基準をはっきりさせています。楽天に出店している人たちが、「仕事が楽しくなりました」と思い続けてくれるような仕事を自分がしていれば、大丈夫だと思っています。「おまえは数字をあげていないけれど」と言われそうですが、三木谷さんが思うラインは超えていない。

 

2007年に兼業自由、勤怠自由の正社員になって、それから給与は上がりも下がりもせず、いわばベーシックインカムが保証されているような状態です。社内フリーランスになったのに、最近はそのことが会社でも引継ぎされておらず、外との仕事ばかり増えて、楽天からの仕事はほとんどこないので、“社内失業”状態です(笑)。なので自分では、「パトロンがついてくれたアーティスト」に似ているなと思います。パトロンが支援してくれている以上は、しっかり芸術活動をしておこう。会社から言われていないことを、しっかりやろうと。現在、楽天の仕事は少ないのですが、今、この経験をいずれ楽天に返す時期が来るのだろうと思って、楽しみながら仕事をしています。

 

外の人からは、「楽天ってがちがちのトップダウンな働き方なのかと思っていましたが、こんな人がいるなんて、懐が深いんですね」と言われることもあり、楽天の印象がよくなったこともあります(笑)。ブランディング係でもあるのかなと。

 

セカンドキャリアは、誰かの「ありがとう」の延長線上に

自分の働き方を説明するのは、いつも苦労します。よく、「越境」しているといわれますが、そもそも仕事に境い目ってあるでしょうか?例えば、八百屋さんが店の軒先から離れた場所でお客さんとお話をしている。これは、越境ではないですよね。さらに、八百屋さんが、店とは違う、離れた場所でお客さんと話している。これは越境でしょうか?仕事に「越境」はありません。なので、「セカンドキャリア」という言葉も、そもそも必要ではない。すべては、価値を提供する、もしくは、「ありがとう」といわれるための延長線上にあると思います。

執筆者:酒井 花
ライター
1974年生まれ、埼玉県出身。ジャーナリストの父の背中を見て、新聞記者になりたいと思い、十勝毎日新聞社に入社。社会部を振り出しに、政経部、地方部などで16年間、記者として働く。販売局を経て現在、営業局管理部副部長。販売・営業管理の仕事を通じて、記者時代にはできないスキルや体験が見についたと実感している。「取材、書く」だけではない、企画から提案、地域おこしまで何でもできる新しい時代の記者を目指している。家庭では夫(単身赴任中)と9歳の息子の3人家酒井花さん(ライター)