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再雇用後も「同じ労働」をする場合、どこまで賃金ダウンが認められるのか?

基本給の減額は定年時の60%が限度が目安のようだが。

①高齢者に雇用状況
厚生労働省が2022年12月に発表した「高年齢者雇用状況等報告」によると、企業が実施している65歳までの雇用確保措置の内訳は、企業全体で定年制の廃止3.9%、定年の引き上げ25.5%、継続雇用制度の導入70.6%である。継続雇用制度を適用している企業が多く、特に大企業は83.3%と高い。
継続雇用制度を導入している企業での雇用形態の内訳(厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」)は、全体で勤務延長制度(給与維持)のみを実施している企業は10.5%、再雇用制度(賃金ダウン)のみ実施は63.9%、両制度の併用は19.8%である。勤務延長制度より再雇用制度を導入している企業が多い。
60歳定年企業において継続雇用された者は87.1%、継続雇用を希望しない定年退職者は12.7%、その他0.2%で、8割以上の従業員が継続雇用されている。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査 (企業調査)について 【速報値】」((2019年時点)によると、再雇用後も「定年前と全く同じ仕事に就かせる」割合は、企業全体の44.2%、「同じ仕事でも責任の重さを軽減する」の割合は38.4%で、約82%の企業が従前と同じ部署に配属している。賃金面では定年前(60歳直前)の賃金を100とした場合、フルタイム継続雇用者の61歳時点の賃金水準は平均値で78.7%であり、大企業ほど更に平均値が下がる傾向がある。
②再雇用時賃金ダウンが認められる理由
定年後再雇用でも同一労働同一賃金の適用を受けるが、他の非正規雇用労働者とは異なり、たとえまったく業務内容が同じであっても、賃金額の低下が以下に示す「その他の事情」により、合理的な理由として認められることがある。
(1)定年前の賃金水準を基準としつつ、個人の職務遂行能力を重視して賃金を決定していること。例えば加齢による体力や判断力の低下などはマイナス要素になる。
(2)生活費の一部として活用できる退職金の支給があること
(3)高年齢雇用継続基本給付金の給付により、給与の一部補てんがあること
③過去の裁判例から見られる減額の目安(名古屋自動車学校事件)
原告の基本給を退職前の45%に減額したことは、60歳の定年時に退職金を受け取り、高年齢雇用継続基本給付金と報酬比例部分の老齢厚生年金を受給できたとしても、定年前と職務内容・配置の変更範囲には変更がないこと、基本給が年功賃金で決定している若手社員の基本給よりも低いことなどを理由に、労働者の生活保障の観点から見て定年退職時の基本給の60%を下回ること、賞与も定年退職時の基本給の60%を基礎として算出した額を下回るのは違法としている。この判決は基本給の減額は定年時の60%が限度であると明確化したことで、企業が定年再雇用者の賃金額を決めるひとつの目安と思われたが、その後最高裁は「基本給及び賞与の性質と支給目的、また労使交渉の具体的な経緯を考慮していないこと」を理由に原審(第二審)の判決を破棄し差し戻した。

<外部リンク>

再雇用後も「同じ労働」をする場合、どこまで賃金ダウンが認められるのか?(マネー現代)