わたしの
セカンドキャリア
第10回 起業したインバウンド旅行業がコロナで大打撃 Uターンした故郷の魅力をアフターコロナに活かす/伊藤薫さん
新卒で入ったリクルートを辞め、海外へ。そしてインバウンド向け旅行業を起業するまで
私は18歳まで糸魚川市で育ちましたが、早稲田大学に入学してからはずっと東京でした。
新卒でリクルートに入社して、「ホットペッパー」で地域に特化した中小企業の販促プロモーションをしていたのですが、海外の知見を活かして日本の地域ビジネスを作る新規事業に携わったことから、海外とのつながりを強くしたいと考えて退職。上海、フィリピンで各々一年ほど経験を積みました。
その後、渋谷にあるデザイン会社で中小企業の海外販路開拓をサポートするプロジェクトに携わったのですが、その仕事をしている中で、海外の方がプロダクトや日本の地域に興味を持っても、その背景になかなか出会えないことに気づき、インバウンド向け旅行業の起業を決意。2016年に「株式会社イールー」を設立し、旅行業の資格を取得しました。
私のライフラインチャート
コロナでインバウンド需要が消失。Uターンを決意する
2016年に設立したインバウンド向け旅行業はコロナ前まで順調に推移していました。会社員時代に深川周辺に住んでいたことや、そこが江戸文化の中心だったことから、深川エリアでしか出逢えない人や企業、そして文化があるという事をインバウンドに伝える旅行事業を始めました。
このあたりは江戸切子や染物などの伝統的なものづくり文化と、東京都現代美術館ができたことでアート・デザイン関連の方たちが移住し、かつて倉庫だったところをカフェやオフィスにして新しい文化を発信している、新旧が混在した場所です。なので、旅行業とともに、その地域の魅力を発信するメディア事業や、専門領域に特化した研修事業をすることで、日本人と海外の方が、ビジネスとライフスタイルを併せて繋がっていけるような旅行体験になればいいなあと思ったのです。
幸いなことにインバウンドブームもあり、当時はひとりで1000人以上の外国人を案内し、国内でチームを組んで送客するシステムも作っていました。さらには、私の故郷の新潟県糸魚川市で2016年に大火事が起こり、市の中心部が打撃を受けたことから私は復興町まちづくりアドバイザーとなり、糸魚川のことにもかかわることになりました。そこにコロナが起こったのです。
コロナ渦の初期から私は「これは長引きそうだな」と思いました。しかもインバウンド向け旅行業は、彼らが日本に来られないので成り立ちようがない。そこで2020年3月に家族3人で私の故郷の糸魚川に移住したのです。
故郷でゼロから立ち上げた新しいビジネス
当時、糸魚川は、火事からの復興と人口減少対策に追われ、交流人口をどう増やすかが課題でした。それに対して私は糸魚川が持つ海や山の資源を生かした教育プログラムを考えました。糸魚川は観光地でもリゾート地でもないですが、ユネスコが世界ジオパークに指定しているほどの地質的財産がある都市です。家族で来て、子供は自然体験を楽しんだり、ジオパークで学んだりし、大人は仕事をする「親子ワーケーション」には絶好の場所だと思ったのです。どうすればこれをツアー企画にできるかを考え、ワーケーション体験を社員にさせる企業を誘致しました。行政と協力しながら、3年間かけて形になったところで、コロナは終息に向かいました。
糸魚川と東京での体験をともに活かした新しい事業を育てる決意
いまは糸魚川と東京の2拠点生活をしています。インバウンドは戻りつつあるので、東京でやろうと思っていたことを復活しつつ、糸魚川だけでなく、その周辺地域とタッグを組みながら地方への送客を考えています。糸魚川にいた2年間で地方の特色を生かした体験プログラムを作ってきました。そこにインバウンドを巻き込むことで、地域が稼げる仕組みをつくっていけると考えています。日本中にネットワークを張り、どれだけオリジナルなツアーを作れるかが事業の要諦だと思うので、魅力的な企画を作ることが、私のいまの仕事です。
3つのターニングポイント
徐々に地方に誘客したい、故郷の糸魚川への想いが強まる。
今後のわたし
コロナ禍でリモート環境が進歩したおかげで、たいがいのことは糸魚川で出来ることがわかりました。そこで糸魚川をベースにして東京都の2拠点生活をしながら、さらにどこまで育てられるかを考えています。幸い仲間が、北陸や関西を中心に全国に増えてきています。また糸魚川から車で1時間も行けば、世界から観光客を集める白馬に行けますから、そうした観光地との連携も強化したいと思っています。糸魚川を拠点に、30年先を見据えた旅行ビジネスを構築するのが、いまの私の夢です。
編集部より
伊藤薫さんは「次のじぶんプロジェクト」に参加している方々よりはたぶん、ひとつ下の世代に属していると思います。
ただ足跡を聞いていると、彼女は数年ごとにゼロからリセットして新しい人生を立ち上げていることがわかります。それは「若いから」というひと言で片付ける話ではないと思います。いま、時代はかつてより数倍の速さで変わっています。コロナのように考えてもなかったことも起こります。その変化にどう対応すればいいのか。彼女をインタビューしながら、私もさまざまなヒントをいただきました。
実は私が伊藤さんと知り合ったのは半年ほど前ですが、彼女の話を聞いて糸魚川の魅力に気づき始めました。彼女が言うように観光はありませんが、長逗留にはいいところですよ。
次のじぶんProject 編集アドバイザー 柏原光太郎