フロンティア
インタビュー

女性の定年~しなやかにセカンドキャリアへシフトする女性たち②

男女雇用機会均等法が施行され30余年。企業で働き続けた女性たちは定年を迎え、今後も確実にその数は増え続けていく。「女性の定年」に焦点を当て、今後も自分らしく働き続けたいと願うマチュア世代(40代後半から60代の働く女性)を対象にコミュニティの場と研修事業を展開するNext Story(ネクストストーリー)代表取締役の西村美奈子さんに、立ち上げた思いや狙いを聞いた。

聞き手:次のじぶんProject プロジェクトリーダー 北村貴

Next Story 代表取締役 西村美奈子(にしむら みなこ)
1983年富士通にソフトウエアエンジニアとして入社、開発や海外顧客訓練、コンテンツビジネス、情報システム、マーケティングとさまざまな業務に従事。私生活では26歳で結婚し、27歳と30歳で出産。2子を育てながら、キャリアを積んだ。
グループ企業での役職定年を機に、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員として研究活動を開始。
その後2017年12月に57歳で早期退職し、18年12月Next Storyを設立。大学での研究をベースに女性向けセカンドキャリア研修事業や講演活動、キャリア女性を対象にしたコミュニティ「マチュアの会」の運営を手掛ける。
2023年3月法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
同年5月、研究成果をまとめた共著「プロティアンシフト~定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択」(千倉書房)を上梓。

◆Next Story
https://next-st.com/

しなやかにセカンドキャリアへシフトする女性たち

-セカンドキャリアへの備えについて、どちらかといえば女性は準備が入念で上手だと感じています。

そう思います。男性はプライドが邪魔するのではないでしょうか。男性は常に「組織のメンバー」というのが大きな存在。女性はある時は母親としての役割が組織のメンバーよりも大きくなったりする。
そのつど優先度を変えながら柔軟に変化に適応します。そうした経験値を積んでいるので、セカンドキャリアにシフトしていく時も有効に機能しているのではないかと思います。

-その時々に置かれている環境によって人間関係も経験値も変わる。
経験するステージを何度も変えられるというのが、女性の場合は強みかもしれませんね。

例えば、子育ての真っ最中にいて仕事との両立が辛いとか、定年後の自分のキャリアが見いだせずモヤモヤするとか、自分が渦中にいるときは、自分がどのステージにいて、この経験が後々に生きるとか、客観的に見ることは難しいです。大切なことは、辛い時にこそ「こんなに大変なのね、一緒に頑張りましょう」と、息抜きができて、共感しながら話を聞いてもらえる人がいるということ。これだけで頑張ることができます。私たちはそんな場を目指しているといえます。

先日、終活を迎える親世代の子供となる50代、60代向けに、セカンドキャリアについて話してほしいといわれ講演をしたのですが、参加者にはなんと70~90代の方もいらして、予想外に高評価をいただきました。もしかしたら、セカンドキャリアのターゲット層はもっと高齢の方まで広げてもいいのかもしれません。子育て世代から高齢者まで、非常に幅広いのだと感じました。

-これからはミドル&シニアの力を活用しないと地域の活性化はありません。インタビュアーの北村が2拠点生活する北海道・浦幌町では、近年若い世代の移住者が増え注目されています。実際に全国800市町村へのモニタリングでは、半分の自治体で20代が転入超過です。20代の多くが地方に向かっているという現状の一方、受入れ側に話を聞くと、経験を積み上げた中高年にぜひ移住してほしいというのが本音です。昨年、浦幌町に65歳の方が移住されたときには、「待望の中高年移住者です」と町の方が言っていました。

 

地方の自治体が歓迎しているのは、若い世代ばかりだと思っていたので興味深いです。
実際に研修に来られている方は、いろいろ叩かれて訓練されてきているので、何かを始めると決めたら強いのだと思います。毎回これは思うのですが、定年退職だからといってこの力を終わりにするのは非常にもったいないと。最前線で頑張ってきた方の話を聞くたびに、これを生かしたいと強く思います。いろいろな分野で、いろいろな経験を持っている人がいるので、これを一つに合わせて、何かできれば楽しいなと考えています。ビジネスになるというよりも楽しいからスタートして、セカンドキャリアについて悩んでいる方たちの「ネタ」になればいいと思っています。

-セカンドキャリアは、「楽しい」が基軸にというのがいいですね。

先ほど受講生の8割が管理職の方とお伝えしましたが、ある程度経済的には恵まれている方が大半です。研修では、経済的なことも大切ですが、楽しいことを追求して心理的成功を目指そうと話しています。研修後に、お互いが助け合うような関係も生まれつつあります。研修からコミュニティ、そこからプロジェクトへ。理想的な流れです。
研修費を一人5万円に設定しています。「そんなに安いの」と驚かれる一方、東京都の各種事業は無料です。価格設定には悩みましたが、個人のポケットで出すならなんとかなるという値段に決めました。セカンドキャリアについての情報や考え方のヒントをご提供していますが、この研修で何か技術的なことを身に着けてもらうというよりは、共通課題を持つ仲間と出会い、楽しいことをやっていこうと一歩を踏み出すきっかけをつくるのが狙いです。

 

 

定年まで働く、新世代女性のサンプルとして

-私たちの世代(50代)では定年までフルで働くという女性の割合は低いですが、一世代下になってくと当たり前になっていく。次の世代のロールモデルをつくるというのはすごく価値のある仕事ですね。

ロールモデルというと、「この人みたいになりたい」と限定されがちなので、私は「サンプル」という言い方をしています。一人ひとりに焦点を当て、この人のここはいい、参考できる部分はまねができるような、サンプルになる女性たちがいっぱい生まれればいいと思っています。これまでもメディアの方から問い合わせが複数あって、定年後も働く女性の姿を何人も紹介しています。世の中にいっぱい事例が出ていくことで、共感してもらえます。私たちの世代は、事例がほとんどなくて「分かりません」という状態だったので。

私が悩んでいたころ、日経セミナーに参加するとディー・エヌ・エー創業者の南場智子さん、ゴールドマン・サックス証券のキャシー松井さんらが講師として登壇していました。私にはきらきらしすぎてまぶしかったのですが、そうした講師たちに若い人たちが手を挙げて英語で質問をしていました。若い人たちは、ぜひそうした素晴らしいモデルを目指していただきたいと思います。ただ、当時40歳を過ぎていた私は、普通の人たちの、等身大の話が聞きたかったのです。これまでの苦労や失敗の数々を含めて、先輩の話を聞いて「私も楽しそうにやっていけるのだな」と思いたかったのです。

 

-女性活躍推進法が施行されて、女性の働き方もずいぶん変わってきました。これから確実に定年を迎える女性が増えていく中で、国の施策に求めたいことや企業のトップに考えてほしいことはありますか?

女性活躍がうたわれて久しいですが、政府や企業の施策はいまだに子育て世代が中心です。具体的には、若い世代の育児と仕事の両立やリーダー育成などです。私たちがターゲットにする40代後半以降の世代は、女性活躍の対象になっていないのではと思ってしまいます。一部の役員候補を除けば、上の世代はあんまり期待もされていないのかなと。特に企業にいる方は、強く感じているのではないでしょうか。
ある機会に、内閣府の男女共同参画局の局長と話をさせていただきました。「やっぱりこの世代の女性たちが頑張ることで、世の中を明るくしますよ」とお伝えさせていただきました。世間でうたわれているシニア活用も、シニアというと男性視点。そもそも女性とシニアというように、単純に並べないでほしいと思います。女性にも若い人や年配者はいます。やはりマジョリティはまだ男性で、施策も男性目線。これから女性の数が増えていけば、変わっていくのでしょうけれども。

-身の回りに話を聞くと、女性活躍には程遠いという話もききます。「管理職になんかなりたくない」という若い人たちの声もよく聞きます。

キャリア自律がまったく進んでいないどころか、「男女平等」も私が若いころに感じていたいろいろなものが、今の40代でも同じという状況に驚きます。それほど日本は遅くて、国際的なジェンダーギャップの順位(※)に表れています。私たちの世代も、管理職になりたくないというのが本音でした。ただ、ポジションがあるということは、何かを決定できる位置にあるということを、若い人たちにはぜひ知ってほしいと思います。

雇用機会均等法第一世代は、下に続く人たちに「あーは、なりたくない」と言われるほど、がむしゃらに働かざるをえない部分もありました。企業には、女性に限らず管理職の働き方改革の是正をもっと進めてほしいと思います。自分のやりたいことを実現するためには、管理職になって決定権をもつことが必要です。女性管理職もきちんとそのメリットと魅力を伝えてほしいと思います。一方、管理職になることばかりが、いいわけでもありません。いろいろな活躍の仕方がありますので、上に行くことがすべてではありません。大切なことは、心理的成功を目指すということです。もっと若い人たちに伝えていきたいと思っています。

 

※世界経済フォーラムが発表した2023年版の日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、前年から9ランクダウンした。特に政治と経済の分野で男女格差が埋まっていないことが示された。

※西村さんの著作「PROTEAN SHIFT

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執筆者:HaNa
ライター
1974年生まれ、埼玉県出身。ジャーナリストの父の背中を見て、新聞記者になりたいと思い新聞社に入社。社会部を振り出しに、政経部、地方部などで16年間、記者として働く。「取材、書く」だけではない、企画から提案、地域おこしまで何でもできる新しい時代の記者を目指している。家庭では夫(単身赴任中)と9歳の息子の3人家族