フロンティア
インタビュー
教えて!梅崎修先生①~ミドルシニアのキャリアの形成と地方共創インターンシップ
「人生100年時代」と言われて久しい日本では、都市部大手企業の社員3人に1人が50代を迎えているといわれています。40代、50代のミドルシニア社員の多くは、会社に「就社」し、キャリア形成を委ねることが当たり前でした。突然の「人生100年時代」の到来で、残りの長い年月をどのように過ごすべきかは、一人ひとりの大きなテーマであり、社会の課題でもあります。国は、法整備や副業の促進などを通じて、セカンドキャリアの形成を後押ししていますが、ミドルシニアの多くは二の足を踏めず悩んでいます。日本の雇用システムや職業キャリアの形成に詳しい、法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科の梅崎修教授に、地方でのインターンシップ体験がミドルシニアのキャリアの形成にどのような影響をもたらすのか聞きました。
聞き手・大桃 綾子(Dialogue for Everyone㈱ 代表取締役)
リスキリングの前提として、「自分のあり方」のチェンジをする
-地方でのインターンシップ体験について、梅崎先生は推奨されていますね。本人に与えるインパクトについて、どのように考えていらっしゃいますか?
社会人のキャリア形成として今、「リスキリング」が注目されています。
ただ、この流れについては、単にスキルを習得することだけに特化しているのではないかと、少々疑問に思っています。もちろん、本当にスキルの問題を抱えている人もいるかもしれませんが、既存のスキルで十分活躍できる人もいます。本当は何を変えなくてはいけないのか。言葉に言い表すのは非常に難しいのですが、スキルの前提に個人の在りようとでも言いましょうか、仕事や人生に対する態度そのものが重要で、自分の態度をチェンジすることでスキルが生かされると思っていて、実はそのことこそ大切なのだと考えています。
※リスキリング(新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされる技能や知識の大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること)
-我々もリスキリングが、ただ資格取得に走ってしまうような流れには違和感があります。何のための学び直しなのか、土台がおきざりなってしまってはいけないなと。
そうなのですよね。学び直しがうまくいって、新しいキャリアが築けるかどうかは、かなりの部分、態度変容によって変わるのではないでしょうか。しかし、ここを変えるというのは簡単そうだが実は難しい。例えば「大企業の部長」という態度のまま地方に行っても、受け入れてはくれません。
移住の研究をみてきても、移住先でうまくいく人、いかない人がいる。それは、多くはこの「態度」の問題にあるように思います。若い人が比較的うまくいくのは、「真っ白」な状態で入るからです。一度築いてしまった「土台態度」は沁みついています。大企業であれば、組織的、文化的思考や習慣が見についているものです。一度、それをゼロに戻す「アンラーニング」を経て、次のステップに行くことが大切ではないでしょうか。
そうしたことをせずに、「地方は楽しそう」と憧れで入ってしまうと、摩擦が生じてしまいます。関係性を築いていく上での体験として、実はインターンシップは非常に重要です。インターンシップという「トランジション」(次のステップへの移行、過程)で、これまでとは異なる別の組織での働き方をしみこませていくのです。
慣習を0に戻す、アンラーニングの重要性
-地元出身であるにも関わらず、Uターンでは文化や習慣など慣れるのに3年かかったとう例も。
都市と地方。そもそも組織文化はまったく異なります。大きな組織のようなヒエラルキーによる指揮命令系統があるのではなく、地方はそれぞれ小さな塊があってネットワーク的なつながりで、ものごとが進んでいきます。どちらがいいのかという問題ではなく、地方と都市ではやり方が異なるのです。
地方ではどのように人とつながるべきか。一から学んでいくプロセスがとても大切だと思います。
-何か良い、コツはありますか?
ラーニングの前に「アンラーニング」というプロセスは、社会人教育の最大の難しさといってもいいでしょう。ゼロから学ぶ方が実は簡単で、一度身についた土台を変えていくことは非常に難しい。
一方でスキルとは違って、短時間で大きく変化することもある。たとえば特別な体験をすることによって、急に価値観が変わることもできる。
スキルの場合は、急には身につかないですよね。例えば、語学は一瞬にしては身につかず、何年もかけていくものです。
都心に生まれて住み続け、一流大学と言われるところに進んで、大企業に就職して、周りを見てみたらみんな平均年齢50代になっている。何となくこの歳までやってきたが、「人生の価値観を変えていきたい」と、ふと思ったとき、環境を地方に移してみたとします。
地方では一つの事業を進めるとき、企画をばっちり固めるのではなく、なんとなく「ふわっ」とみんなの協力を得ながら決めていくことが大切なんだとか、地元の人にはしっかり挨拶しておくべきだ、などなど。これらはスキルの変容以前に「価値観の変容」が求められます。
態度が変わるということは、ただ加算していくだけの知識習得とは異なって、『修行』に近いものがあります。『宗教体験』とも近い。『巡礼の旅』と同じで、これまで自分はえらそうな態度をしてきたが、体験によって変えられることがある。大病や大きなけがをしたことで人生観が変わる人もいますが、それと近いかもしれません。「あえて事故に遭ってください」とはいいませんが(笑)、今までの生活とは異なる体験の中に入り、最初は不適応になるが、自分の価値観を変えれば、むしろこちらの方が、これからの人生にとって重要ではないかと気付けるはずです。
インターンシップを通じてアイデンティティを再構築する
特に、大半の男性の場合は、「転機=仕事」で生きています。会社中心人生の節目は、課長から部長になる時と考えています。部長になれないとわかってから自分のキャリアを考え直すのでは遅いのです。つまり人生観を自分で変えるのではなく、会社にゆだねています。
一方女性の方が、仕事だけではなく、結婚、出産、介護など小刻みに転機が訪れているので、セカンドキャリアを踏み出しやすいといってもいいでしょう。もちろん、男性の場合も同じように小刻みに転機は訪れているはずなのですが、、、。
-どうすれば、いち早く気づけるのでしょう
人生の中で、キャリアの変更や選択を決断するとき、AかBのどっちを選んだら片方をあきらめる「二択」ではないはずです。人生は、仕事や家族だけではなく、紡がれた糸のように、生活のこと、地域のこと、自分の体のこと、親のこと、いろいろより合わせてまとめて、結論が出てくるものじゃないでしょうか。
人生の選択肢について、毎日考える必要はありませんが、男性も女性も5年に1回は考えるべきじゃないのかなと思っています。ただ、今まで置かれている仕事や環境の中では、人間は惰性で生きているので、変えていくことはできません。なので、インターンシップのような制度を生かして、特別な期間、地域や人間関係の環境を変えて、自分のコミュニケーションの仕方やあり様を見直すきっかけをつくってほしいと思っています。
もちろん人間は欲望で生きていますので、出世や年収を上げたい等と思うものですが、どこで生きて死んでいくのかをベースに考えていくと、いろいろな選択肢が生まれてくるのではないでしょうか。インターンシップなどの体験を通じて、大げさに言うとアイデンティティを再構築する。徐々に今までのあり様を変える体験をして、最終的に自分に合った選択をしていくということではないでしょうか。
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