愛すべきトホホ人図鑑

手土産だけ置いて帰る紳士

若手が多い飲み会に誘われた50代の紳士。「残念ながら、その日は先約があって参加できないんだよ~」といいつつ、「最初の乾杯だけ行くね」という。会場はママさんがいるスナック的な飲み屋さん。紳士は、時間ちょうどにやってきて、ビール一杯だけ付き合い、ママさんに「今日はよろしく頼みますね、またお邪魔します、では」といって、一杯の代金にしてはだいぶ多めのお札と、ママさんあての手土産を置いて風のように去っていった。かっこいい。単に断るだけでなく、礼儀として顔は出し、お金は多めにおいてサッと去る。どこで習うんだこんなの。いつかまねしたい。

老舗で線香を仕入れる紳士

みんながお世話になった上司のお墓参り。みな、彼の好きだったお酒やたばこ、お花や本などをお供えしている。そんな中、バッグからそっと包みを取り出した先輩。見ればお線香の束である。「◎◎さん、今年も鳩居堂で?」「うん、そうだよ」と会話が聞こえる。どうやら彼は毎年銀座の鳩居堂でわざわざ線香を仕入れ、このお墓参りに参加しているらしい。束に火が付くと、なんとなく上品な香りが立つような気がしてくる。鳩居堂では、ポチ袋や便箋は買い求めるが、お線香を、というのはなんだかとても大人だ。しかも「あの方はいつも鳩居堂で買っているのよ」と知られているのも、そのセレクトが身についている感じがして紳士感が高い。かっこいい。

これわたし?と思ったら
紳士的なふるまいは、気持ちを豊かにしてくれる
若いころに大人からしてもらって「いいな」と思ったことを、セカンドキャリア世代になって実践しているだろうか? いやいやおごるよ、飲みにいこう、なんて言っても、「自慢話を聞かされる」といって喜んでもらえないご時世だ。であれば、自分のために、紳士の行動をとってみるのはどうだろう。ちょっと古めかしい丁寧な言葉で話してみたり、消耗品選びをちょっといいものにしてみたり。お礼状を手書きで、なども素敵だ。年齢を感じさせない若々しさも素敵だが、ちょっと意識して大人ならではのふるまいをしてみると、意外に、自分自身の気持ちが豊かになってくる。

愛すべきトホホ人図鑑とは

自分のことって自分では意外とわからないもの。「それなりにがんばってきた。成果だってなかなかのもの(周りもそう思ってくれているに違いない…)」。と思っていても、長所と自認するところはちょっと鼻についていたり、短所と思っているところが意外と人に愛されていたり。そこかしこにいる「愛すべきトホホ人」の中に、もしかしたらあなたに似た人がいるかもしれません。違う角度から自分を見つめ、「次のじぶん」への一歩を踏みだすステップを、広く、軽くするきっかけになれば幸いです。

執筆者:ふしみしょうこ
ライター
北海道生まれ東京在住のコピーライター。会社勤めと並行して、ふるさと北海道にまつわるコラムを書いたり、精神的支柱である演劇の界隈で活動、執筆する。人生は劇場であり、いただいたお役を工夫して演じるのが面白さ、という気持ちで生きております。